【書評・感想】『イベリコ豚を買いに』あなたは本物のイベリコ豚を知ってる?

最近はすっかり聞き慣れたイベリコ豚。
市場に出回るほとんどが偽物だって知っていましたか?

本書『イベリコ豚を買いに』は、イベリコ豚の真実とその普及に奮闘した人のお話です。

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『イベリコ豚を買いに』の感想・レビュー

『イベリコ豚を買いに』はどんな本?

著者はどんぐりを食べるというイベリコ豚に興味を持っていました。
ある日、イベリコ豚を見てきたという日本人に出会います。
彼の勧めで現地のイベリコ豚を見に行こうとした著者でしたが、見学に発つ直前に宮崎県で口蹄疫が確認され、先方から断られることになってしまうという不運に見舞われました。それから二年。
ようやく訪れたスペインで、著者はイベリコ豚を買うという条件と引き替えに取材を許されるのですが、そこで出会ったイベリコ豚の文化は、日本で宣伝されているイベリコ豚とはまったく違う実態でした。
手元に残ったのは買ってしまったイベリコ豚。
著書はイベリコ豚で作った製品を売ることにします。
幾度の試行錯誤の末にようやく商品を作り出した著者でしたが、そこまでにこぎ着けた苦労は、やはり並大抵のものではなかったのでした…。

「イベリコ豚」とは何だ?

スペインにイベリコ地方があると思っていたという著者でしたが、実は僕もまったく同じことを思っていました。
しかし、実際は違うらしいです。

豚のことはスペイン語でCerdo(セルド)といい、これに続けると、Oで終わる語尾変化によってIberica(イベリカ)Iberico(イベリコ)となります。
Cerdo Iberico(セルド・イベリコ)です。
つまり、イベリコ豚とはイベリカ種の豚のことだった…というわけですね。

日本の豚のほとんどがランドレース種ということで、イベリカ種ではないのだとか。
これが、あのピンク色のいかにもピッグといった見た目のやつですね。

『ベイブ』という映画を知っている人は「ああ、あれね」と納得していただけるかと思います。

一方、イベリコ豚は黒い毛に覆われているそうです。
なのに、黒豚ではないのだとか。

本書によると黒豚とはバークシャー種のことを指すのであって、上述のとおり、イベリコ豚はイベリカ種だから黒豚(バークシャー種)ではない…。
ややこしいですね笑

でも日本で誤解されているというか、実態が知られていないことは、実は意図的だったりするそうです。

かつてのイベリコ豚ブームのウソ

彗星のごとく現れた耳慣れない響きを持ったイベリコとかいう豚。

いつの間にか日本でブームになっていて、昔から常識のようにありました、という体で今なお売られているような気がします。

イベリコ豚はどんぐりを食べる豚です」という宣伝文句はかつて有名になりました。

どんぐりを食べるからなんだという話は置いておいて、本書は日本の広告が堂々とウソをついていたのだと主張しています。

イベリコ豚はスペインの黒豚です

まあたぶん売る方も分かっていなかった可能性はありますが、以下の宣伝文句を付け加えると、ちょっと胡散臭くなってきます。

イベリコ豚はいつもどんぐりを食べていますから肉に甘みがあります

黒豚はイベリコ豚じゃないしどんぐり食べないし…。

加えてこれ自体も誤解なのだとか。

イベリコ豚に甘みがあるのは、肉の中に脂肪をたくわえる性質を持っているため。
その脂肪の中に甘みがあるからであって、別にどんぐりを食べるからではないです。

だってどんぐり甘くないじゃないですか…。

イベリコ豚はどんぐりを食べますが、それはいつもではありません。

しかも、どんぐりを食べないイベリコ豚もいる…ってもう何でもありですね!

イベリコ豚には3種類いる

イベリコ豚には普通の豚とは明らかに異なった特徴があります。

まず、生産効率が圧倒的に悪い。

一般の豚が一年に二度の出産で25から30頭生むのに対し、イベリコ豚はどんなによくても年間15頭。
成長も遅く、離乳したときのサイズも一般の豚の半分以下…。
1キロ体重を増やすのに一般の豚の倍の飼料を必要とするのだとか。
それでも受け入れられるのは肉の品質がよく、他とは比べものにならないくらいの風味を持っているから!

本物のイベリコ豚を食べてみたい!

その肉質と風味の理由が、どんぐりを食べているからなんだそうです。
ここでようやく出てきましたね、どんぐり。

どんぐりと言っても、日本のどんぐりのような椎の実ではなく、樫の木の実で、これは生のカシューナッツやアーモンドに近いそう。

そして最も大きな特徴は、こうした飼料を与えているのではなく、放牧で自由に食べさせていること。
イベリコ豚はヨーロッパに唯一残る放牧豚なんだそうです。

著者の野地氏が訪問した放牧場は、曰く「ディズニーリゾート20個分」。
ランドローバーを3時間走らせても豚のグループを見つけられなかったりするって笑っちゃいますよね。

ようやく見つけたイベリコ豚を観察した著者は、馬よりも美しかったという感想を記しています。

柵の中に閉じ込められた豚とは違って、ふくらはぎの筋肉が発達し、足首が引き締まって見えるそうです。
イベリコ豚に魅せられた人は注目する部分も普通の人とは違いますね。

餌が樫の木の実であるため、イベリコ豚はイベリア半島の中部から南と、ポルトガル、フランスのごく一部にしか生息していないそうです。
イベリア半島の北部には樫の木がないから。

なんか、イベリコ豚の中にも色々あるみたいですよ。

イベリコ豚の定義

この、どんぐりを食べるイベリコ豚を、ベジョータと呼ぶそうです。

生産者協会はイベリコ豚の定義について、さまざまな規定を作っていますが、その骨子は次の3点に要約できます。

①イベリコ豚とは母豚が純イベリコ種の豚だけに限る。
②種豚は純イベリコ種の豚もしくはデュロック種に限る。
③イベリコ豚と呼んでいいのは50パーセント以上、純イベリコ種の豚の血が入っているもの。

つまり、母親がイベリコ種で父親がデュロックの豚はOKだけど、その子どもが他の種の豚と交配されたものはイベリコ豚とは認めない…。

豚の世界ってきびしー!

この条件を満たしたうえで、イベリコ豚はさらに3種類に分類されます。

・純イベリカ種のベジョータ。これが最高級のイベリコ豚で、どんぐりを食べるのはこいつだけ。
・どんぐりを食べない純イベリカ種のセボ。7、8月以外に誕生した、どんぐりの収穫量が少ないなどの理由により、どんぐりを食べずに育ったもの。
・イベリコ豚とデュロックの交雑種であるセボ。純イベリカ種よりも発育は早い。

ナッツのにおいがするベジョータに対し、セボはどんぐりを食べない分風味が落ちるそうです。

日本に入ってくるイベリコ豚はもちろんセボ…。
なんか美味しくもなく不味くもない微妙な味、という世間一般の評価もセボに対するものだそうです。

脱線しますが、僕は以前渋谷のしゃぶしゃぶ屋で詐欺にあいました。
イベリコ豚食べ放題というお店だったのですが、なんか色々な事情があってイベリコ豚ではなく普通の豚肉のみ。
しかも食べ放題なのに物を頼んでも30分以上持ってきてくれない!
友達と行ったのですが、全員マジギレで帰ってきてしまいました…。
以来、イベリコ豚にはいい思い出がありません。

で、本物のイベリコ豚はベジョータであり、そちらは稀少で本当に美味しいらしい。

ぜひ食べてみたいものですね~!

総評

イベリコ豚に関して述べた4章までに対し、5章以降は著者がイベリコ豚をどのように加工し、どのように売るかに主眼を置いた内容にシフトしていきます。
読む人によっては、ちょっと冗長に感じるかもしれませんね。

端的に言えば、一部と二部で主人公が変わります。
一部はイベリコ豚が主人公で、二部の主人公は著者

まあ、はっきり言って二部より一部のほうが面白いので尻すぼみ感は否めない。

苦労したのだろうという内容のわりに、5章以降伝わってくるのはなぜかイベリコ豚が如何に美味しいか、ということなんですよね。
もちろん文章だからその表現にも限界はありますし、似たような表現が多用されて、最初は美味しそうだと思ったイベリコ豚も、なんかだんだん普通っぽくなってきます…笑

でもそうした欠点を抜きにしても、僕はスペインでイベリコ豚に情熱を注ぐ彼らの「イベリコ豚を広めたい」という意志と、それを受け継いでこうして本にした著者の熱意を買いたいなとも思います。
これを読まなければ、イベリコ豚なんて知らずに日々を過ごしていたと思いますしね。

ただ、この本、新聞とか雑誌とか至るところで書評されています。
その中にビジネス書として紹介しているものがありますが…上記読んで頂ければ分かるとおり、間違ってますね。

ビジネス書ではないから注意ですよ。
ノンフィクションというほど壮大な話もなく、地味ではありますが、スペインの田舎でイベリコ豚を育てる彼らのことを知れただけでも読む価値はあったように思います。

『イベリコ豚を買いに』はこんな人におすすめ

・イベリコ豚について知りたい
・ドキュメンタリーが好き(ドキュメンタリー要素はそこまで強くはないですが)
・無駄に感傷的な描き方をされるよりも、事実を淡々と書いてくれるほうが好き
・豚肉が好き。生ハムが好き。チーズと一緒に食べたい

ていうかこの本、3年くらい前から繰り返し書評されている本なんですよねえ。

文庫発売記念?

2014-05-18 日本経済新聞 評者:星野博美(ノンフィクション作家)
2014-05-11 東京新聞/中日新聞
2017-02-05 読売新聞 朝刊 評者:東えりか
2017-01-15 朝日新聞 朝刊 評者:辻山良雄(書店「Title」店主)

こういう感じです。

メディアがウソの宣伝文句で散々持ち上げてブームにしたイベリコ豚なのに、その真実が書かれた本をこれまたメディアが書評して売り出すのだから皮肉ですよね。
媒体は違うのかもしれないけどさ。

ただ、イベリコ豚を食べてみたくなる本ではありましたよ!

サムネ出典